電脳世界の貴女へ

前文

拝啓

梅雨も中休みとなったのか、青く突き抜ける空、雨露のない紫陽花、まるで真夏日のような今日この頃でございます。電脳少女シロ様におかれましては、ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
私は専らデスクワークをしておりますから、晴れでも雨でも生活は変わらないのですが、窓の外に広がる青を眺めておりますと、やはり気分が洗われるようで、電脳世界でも同じように綺麗な空が広がっているのだろうか、などと感傷的な気分になってしまいます。今朝は明け方にすこし雨が降りまして、久々に折り畳み傘を取り出したのですが、梅雨の方も久しぶりでまだ感覚が取り戻せてないと見えて、なんだか降ったり止んだりと煮え切らない態度でありました。電脳世界の空は果たしていかがでしょうか。

さて、この度は、貴女様の記念すべき日、​電脳少女YouTuberとして​活動を開始された「清楚の日」をお祝いいたしたく、また少しでもこの日を盛り上げるため、僭越ながらこうしてお手紙を差し上げている次第です。 このように畏まった手紙を書くのは全く初めてのことですので、ここからどのようにして書き進めればよいか、さっぱりわからないまま勢いで書いておりますが、幸いにして書きたいこと、書かなければいけないと思うことは抱えきれないほどありますから、それらを思いつくままに書き繕っていこうと愚考しております。乱文・長文となってしまうかもしれませんが、どうか温かい目で読んでいただければこれ以上ない幸いでございます。


さて、電脳少女シロ様、シロちゃん、貴女様のことについて、私は以前にもブログ記事という形で手紙を書いております。

kriver-1.hatenablog.com

その手紙の中で私は、シロちゃんについて思っていること、考えていることを、宗教という言葉で照れ隠ししつつお伝えいたしました。では、この手紙では一体何を伝えたいのかというと、シロちゃんと出会えたからこそできたいくつかの体験談、これらを通じて、シロちゃんへの感謝の気持ちを伝えたい、と思っております。
私たちシロ組は、普段シロちゃんからたくさんの幸せを貰っていて、みんな様々なやり方でシロちゃんに恩返しをしようとしています(と私は思っています)。この手紙もそんな中の一つです。
もしかすると、同じような手紙をたくさん貰っていて、もうお腹いっぱいかもしれませんが、どうか気楽に読んで頂ければ幸いです。

超会議のこと

春と呼ぶには若干暑い頃でありました。
翌日から長い連休があるということで、私も含めて皆がなんだか浮き足立った1日だったように思います。私はその日、研究室の友人2人と私の3人で、夜を徹してボードゲームに興じておりました。

「そういえば、」

友人の一人が、「刑務所から出る」のカードを突きつけて、私に尋ねました。

「いいの?明日。超会議だけど。」

私は、あー、うーん、と唸りました。

「いや、明日ってか、もう今日だけど。せっかくだし、行ってみたら?」

友人から受け取ったサイコロを手の中で弄びつつ、私は迷っておりました。その日の翌日(あるいは「当日」)、幕張メッセニコニコ超会議というイベントがあって、その1日目にシロちゃんが出演するのです。その頃の私は既にシロちゃんのファンであることを公言しておりましたから、友人も気を利かせてくれたのですが、私はというといまいち煮え切らない態度を取っておりました。
というのも、私はこれまでそういったリアルイベントに参加したことがありませんでしたから、ニコニコ超会議でシロちゃんを30分ないし1時間見ることが、どれほど楽しいことなのかいまいち分かっていなかったのです。
しかも、場所が幕張メッセ! シロちゃんを観る時間より、移動時間の方が遥かに長い計算です。

そんなわけで、私は正直あまり乗り気ではありませんでした。
ただ、考えてみると、これまでシロちゃんを応援してきて、シロちゃんの動画を毎日観ていて、それでいてせっかくの晴れ舞台を見ないのもなんだか少し勿体ない気がして(幕張メッセだって、ほかのシロ組さんに比べたらよっぽど近いのです)、まあ試しに行ってみるか、という大変失礼な気持ちになりました。
それで私は、睡眠時間を稼ぐべく早々に友人と別れ、いそいそと床に就いたのでした。


翌日、私は人生初の幕張メッセへ向かうべく、東京駅の長い乗り換えを経て京葉線に乗っておりました。
京葉線といえば東京ディズニーランドへ行くためだけにある線だとばかり思っていたのですが、どうもそうではないようで、舞浜駅を過ぎても私の乗る電車は走り続け、どんどん千葉の中央へと向かっていくのでした。
この頃になると、私もだんだん旅行気分になってきましたから、若干の睡眠不足も相まって、ウキウキしながら窓の外を眺めてみたり、シロちゃん以外にどのブースを見ようか、などと調べてみたりしておりました。とはいえ直前のことですから、結局何を見ればいいのかわからず、まあ行けばなんとかなるでしょうという雑な結論に至り、最後は寝て時間を潰しました。

さて、海浜幕張駅に着いた私は、急ぎ足で会場へと入りました。というのも、思っていたより入り口が駅から遠く、またシロちゃんのブースが入り口から遠く、かなり時間がギリギリになってしまいそうだったからです。ここまで来て遅刻するのはさすがに勿体なさ過ぎますから、私は何度も時計を確認しつつ、早歩きでブースへと向かいました。
シロちゃんが居るブースは、「超ゲームエリア」という名のついた、その名の通りゲームに関する事物が一緒くたにまとめられたエリアにありました。古今東西あらゆるゲームが揃っていて、ボードゲームのエリアもあれば、中に入って遊ぶタイプの筐体があるエリアもあり、色々目移りしそうになりましたが、場所を確認してシロちゃんのところへまっすぐ向かいました。


果たしてそこには、シロちゃんが立っておりました。
いつも通りの画面に映った姿ではありますが、たしかにそこに、私たちと同じ場所に立っておりました。


このときの感動を、なんと表せば伝わるのでしょうか。
私もエンジニアの端くれですから、技術的、物理的には、普段ディスプレイに映っているシロちゃんが、より大きいディスプレイに映っているだけであることは重々承知しています。しているのですが、いまそこにある立体感、存在感、そういったものが明らかに感じられて、私はただ感動するしかありませんでした。


それからの1時間は、私にとってあまりにも一瞬でした。
「会場のみんな、見えてますよ!」「コメントも見てます!」と気を遣ってくれるシロちゃんの優しさが、いつも以上に心に響いて、勝手に嬉しい気持ちになったり。
シロちゃんがうまいプレイをしたときに、思わず拍手してしまったら、周りのシロ組さんも拍手していて、コメントで「過保護すぎるw」とツッコミが入ったり。
シロちゃんがゲームをしている様子を後ろから撮るカメラが登場して、会場が良い意味でどよめいたり。
まさかのゲームチョイスとまさかのハプニングが何度も起こって、その度に心の底から笑ったり。


そして、最後のゲームが終わり、シロちゃんからいくつか告知があるというので、充足感と高揚感で妙にふわふわした身体を抑え、私は背伸びをして待機しておりました。
ところが、告知の内容は、既に半分浮いていた私の心を空まで吹き飛ばして余りある内容でした。シロちゃんが、翌日の超バーチャルYouTuBAR 2日目に、シークレット枠として出演するというのです。


ご存知ない方のために説明しておきますと、超バーチャルYouTuBARというのは、バーチャルYouTuberがバーのマスターに扮してその場で視聴者の悩みを聞くという視聴者参加型のリアルイベントで、私自身シロちゃんとは無関係に(ばあちゃるの告知で知ったので完全に無関係というわけではないですが)興味を持っていたイベントでした。
というのも、悩みを聞いてもらえる視聴者は先着順の抽選券を貰った人の中から抽選で選ばれるのですが、その人たちはバーチャルYouTuberと直接対面できるという触れ込みで、つまりどういうことかというと、私にもシロちゃんと直接お会いしてお話しする機会が与えられる可能性があるということなのです。そうでなくとも、今日のこの楽しかった体験がもう一度できるということなので、私はもう嬉しさで胸がいっぱいでした。


それからしばらくの記憶は(本当に)私からひとりでに抜け落ちているのですが、どうもツイッターの記録によると、私は1時間ほど、特に何のブースも見ることなく幕張メッセの外周をウロウロと徘徊していたようです。
人は嬉しくなると笑顔になり、さらに嬉しくなると飛び跳ねるなどすることは存じ上げておりましたが、さらに嬉しくなったときに記憶を失って徘徊することについては寡聞にして存じ上げませんでした。

さて、ようやっと記憶を取り戻した(?)私は、超バーチャルYouTuberのブースを見に行きました。
ちょうどしずりん先輩の出番が終わるところで、30分ほどイベントのない時間があるにもかかわらず、会場は待機している人でいっぱいでした。
隣のブースではあのみゅみゅ教授がほぼボランティアでバーチャルキャストの体験ブースをやっていて、バーチャルYouTuBARの待機中はそちらの画面がずっと映っていたので、待機中も飽きることなく楽しめたというのもありますが、やはりバーチャルYouTuberという存在の熱心なファンがこれだけいるのだろうということがわかり、心のあたたまる気持ちでした。

30分ほど経って、私にとっては最初の、その日最後のYouTuBARが開店しました。
そこに現れたねこますさんを見て、私はまたも飛び上がりました。本物の(?)ねこますさんがそこに居たのです。
私は初めて見たのですが、それはいわゆる透過ディスプレイというもので、普通のスクリーンとは比べ物にならないくらい、そこに確かな存在感がありました。
私はねこますさんも大好きですから、Bar自体も楽しく見ていたのですが(のじゃロリさんはいつだって可愛いし、あとこの企画の中で一番まじめに相談に乗っていて面白かったです)、その話をすると脱線しますからここでは割愛いたしましょう。兎に角そのバーチャルYouTuBARというイベントにはそれだけの衝撃があり、この時点で私の脳味噌は「明日来るかどうか」ではなく「明日どうやって抽選券を貰える蓋然性を最大化するか」という思考にシフトしておりました。

そういうわけなので、バーチャルYouTuBARが終わった後、私はふらふらと入退場口へ向かい、その日1日で起こったさまざまなパラダイムシフトに夢うつつのまま、半ば放心状態で翌日の入場券を購入いたしました。
そして綿密なGooglingの結果、どうやら抽選券は先着順であるということを知り、遂に私は人生初の「イベントに始発で参加する」というアチーブメントを開放する決意をしたのです。


それからの私の行動は、自分でも驚くほど迅速でした。まず私は家電量販店へ行き、長い1日に備えてモバイルバッテリーを購入いたしました。そして軽い夕食を摂り、翌日の電車を確認して、荷物をまとめ、そのまま床に就きました。
ええ、自分でも信じられませんでした。前日の私は本当に同じ私だったのでしょうか?たかだか1時間半で着いてしまうような「近い」会場に、昼の1時に着けば十分なイベントを、行くかどうか否定的に悩んでいた私は、果たして同一人物だったのでしょうか?
私の中でカントとコペルニクスが手を繋いでくるくる回っておりましたが、当の本人は自宅からの始発程度で果たして抽選券が貰えるのかどうか、ただそれだけが気になっておりましたから、自分に起こったパラダイムシフトをよく理解できないまま私は夢も見ずぐっすり眠りました。


翌日早朝。未だ明けない空の下、私は始発電車に乗るために少し遠い駅まで歩いておりました。
なにぶん夜型なものですから、そのような時間まで起きていることこそあれども、そのような時間に起きて外に出るなどということは今まで一度たりとも経験したことがありませんでしたので、見るもの全てが新鮮な気持ちでございました。
そこに輪を掛けて、普段は使わない駅まで歩く経路でしたから(現実的な徒歩時間で行ける最速ルートを選んだ結果、その経路になりました。東京メトロは始発が遅いのです。それもこの時初めて知ったのでした)、暗いながらもほうぼうに明かりの灯った知らない道を歩きながら、世界の広さ、自分の視野の狭さに感傷的な気分を抱いておりました。


ちょうど、駅に着こうかという時でした。
東の空がゆっくりと白み始め、黒色だった空に茫洋と赤色が広がっていきました。もう、夜明けの時間なのでした。
私は始発電車まで時間もないというのに、思わず足を止め、連続的に色を変えていく空をじっと眺めておりました。そして、不意にその朝焼けが、朝焼けが感動的であるということに、今の今まで気づかなかったことにびっくりしました。
私はこれまでの人生で、およそ8千回もこの朝焼けを見る機会があったのです。そして世界には、この朝焼けと同じように、まだまだ私の気づいていない感動が、そこかしこに広がっているに決まっているのです。


(このツイートをシロちゃんにいいねしてもらったとき、私はシロちゃんに感動が少しでも伝わった気がして、その一瞬だけはシロちゃんと同じ空を見ていた気がして、この電脳少女を一生好きでいようと心に決めたのですが、それはまた別の機会にお話することにしましょう。)



千葉へ向かう電車の中でも、新しい発見がたくさんありました。
私が乗った電車は、自宅の位置の関係で東京駅から出る京葉線の中では2番目に出る準始発だったのですが(あまりこの手の話をすると住居がばれてしまいますからやめておきましょうか。私はバーチャルの住人ではありませんので)、乗っている人はきっと皆、ニコニコ超会議に最速で到着したい人たちなのでしょう。これは受け手側の感覚の問題かもしれませんが、前日、微睡みながら窓の外を眺めていたときには感じなかった、何か期待のような、熱気のような、そういった雰囲気を車内にひしひしと感じて、私もいよいよ始発でイベントに参加しようとしているという実感が湧いてまいりました。
車内には早朝とは思えないくらい多くの人が乗っておりまして、この人達のほとんどが、私と同じように何かとても好きなものがあって、その好きなものを全力で応援するために、あるいは全力で表現するために、この時間から電車に乗って遥々幕張の地へ向かっているのです。そして、驚くべきことに、この人達のほとんどは、同じ場所に集まりながらそれぞれ全く違うものを好きでいるのです。それはつまり、この世の中に、これだけの人がこれだけ好きになれるコンテンツがたくさん、本当にたくさんあるということの証明に他ならないのです。
そのことに気づいて、私は恥ずかしい気持ちになりました。「世界は広くて楽しいことがたくさんある」なんてステートメントは、インターネットの広い海を探すまでもなく、はるか昔から掃いて捨てるほど使い古されていて、当然私も何度も聞いたことがあるのに、その本当の意味を私は全然理解していなかったのです。数学のむつかしい本を読んで、私は世界の真理に近づいた気持ちになっておりましたが、その実私は何もわかっていなかったのです。そのことに気づいて、あまりの話の壮大さに私は一人でクスッとしてしまいました。現象としては、単に多くの人と一緒に電車に乗っているだけなのです。そんなことはいつだって経験していて、変わったのは私の心持ちだけなのでした。

さて、そういったよしなしごとを頭に浮かべつつ、私は再び幕張の地を踏みました。前日も通った道を通り、まっすぐ幕張メッセへ向かいます。
幕張メッセは思っていたよりもだいぶ混雑しておりました。混雑と言っても雑多なものではなく、よく整列されていて、私も指示に従って長い長い待機列に並びました。ここから4時間ほど待機するのです。周囲の人たちは、慣れた手付きで鞄から携帯椅子を取り出してそこに座っていました。また、お菓子を取り出して友人と食べている人もいました。なるほどそういう道具があるのか、そういう準備をすればよかったのか、と感心することだらけです。自分の乏しい物資を眺めつつ、ただ食糧と水分は忘れず持参しておりましたから、それらをもしゃもしゃ食べながら私はゆっくりと時が過ぎるのを待ちました。

9時頃になると、案内役の人も増え、だんだんと列の意味がわかってまいりました。私がいた列は一般入場列、おそらくその前方から500人くらいの位置だったのですが、私の左側にもう一つ列があって、そちらは優先入場列という名前がついておりました。私はニコニコ超会議というイベントに初めて参加するので知らなかったのですが、どうやらニコニコ超会議には優先入場券という前売りのさらに前売りのような券があり、その券を持っている人が先に入場するようなのです。
私はここに来て、どうもこれは抽選券が貰えないかもしれない、という気分になってまいりました。始発でイベントに来るという貴重な体験は前述の通り非常にエキサイティングだったのですが、それはそれとしてシロちゃんに会いたいし話したいし、なにより抽選に落ちたのではなく先着順の券が貰えなかったということになりますと、それは全く純粋に自分の努力が足りなかったということになりますから、少なからず後悔の念が生まれてしまいます。私はこのイベントに後悔の色を塗りたくはありませんでした。ここまでで既にたくさんの経験をもらっていて、その記憶を低俗な感情で上書きしたくなかったのです。私はもうお願いする他ありませんでした。よろしくお願いします。どうか、私にシロちゃんと話すチャンスをください。シロちゃんを褒めるチャンスをください。

10時の5分前頃だったでしょうか。優先入場列がゆっくりと動き出し、それに合わせて一般入場列もやおら立ち上がって移動の準備を始めました。
私は脳内で前日のバーチャルYouTuBARのブースの位置を再確認し、綿密なイメージ・トレーニングをこなしました。入り口、入って左手。角を曲がって、右。会場内は走らない。列を守って、抜かさない。券がなくなっても、慌てない。いや、慌てるけれども、ツイッターで騒ぐくらいで留めておいて、暴れない。

そして、ついに列が動き出しました。私は逸る心を抑え、イメージトレーニングの通り、落ち着いてバーチャルYouTuBARのブースへまっすぐ向かいました。思っていたより多くの人が同じ方向へ向かうので、内心焦りつつ早足で歩き続けました。そして、


抽選券を得た私は、その勢いのまま物販コーナーの列に並びました。実は、こういったイベントのいわゆる物品販売というものに並ぶのもほとんど初めての経験で、私は勝手がよくわかっておりませんでした。しかしながら、そのコーナーの長い長い列と、そこから感じられる冗談抜きの熱気から、ここが始発組(あるいは優先入場組)の主戦場であることは明白でした。
私は長い列の最後尾に並んで、シロちゃんのこと、イベントのこと、この短い朝の時間に学んだたくさんのことを考えておりました。

そうこうしているうちに列は進み、ついに私の購入番が回ってまいりました。ところが、受付の横にあったグッズ一覧の表を見て、私は愕然としました。シロちゃんのグッズはタオルとTシャツの2種類があったのですが、タオルが既に売り切れていたのです。
時刻は10時15分、開場からまだたったの15分です。ニコニコ超会議は10時開場17時閉場ですから、多めに見積もってもまだ全体の4%しか進行していません。だというのに、もうグッズが売り切れている。私は自分の見通しの甘さを痛感しました。そして、改めて周囲の人々の面構えの違いに気づきました。ここは既に戦場だったのです。
私は周囲の猛者たちに頭の下がる思いで、とりあえずTシャツを購入し、トイレに行って即座に着替えました。


さて、このペースで書いていてはいつまで経ってもこの日が終わりませんから、シロちゃんが出てくる直前まで時を飛ばしましょう。

私は無事に抽選券を手に入れましたが、それはあくまで抽選券であって、このあとに抽選が行われることは皆さんもご想像に難くないと思います。
その抽選が行われる段になって、私はいよいよ緊張してまいりました。私が特段緊張する理由はないのですが、とにかく、もし当たったらなんて言おう、とか(いくつか考えてあって、どれを選ぶか迷っていました)、外れたらどうやって気持ちを保とうか、とか、抽選券は貰えたし外れてもまあ満足でしょう、とか、現実的に考えて30/200(だと思います)は当たらないでしょう、とか。
そういった、考えても詮無いことをひたすら考えて、私の頭は意味もなく回転しておりました。


そして、抽選の結果がホワイトボードに張り出されます。
大学受験を思い出すような、当選番号の羅列。

昇順に並んでいることを瞬時に確認して、私は自分の番号を探しました。81番。81番。当選番号は、77、79、そして…、87。
81番は、そこにはありませんでした。補欠番号にもない、正真正銘の外れ券です。
その瞬間の、私の嘆きようといったら、今思い出しても笑ってしまうくらいでした。「抽選券は貰えたし、外れてもまあ満足でしょう」なんて格好つけた数分前の自分はすっかり雲散霧消して、そこにはただ己の不運を嘆く一人の小さなオタクがいました。こんなに悲しい気持ちになったことが、いままであったでしょうか?自分はこんなに感情の振れ幅が大きい人間だったでしょうか?
自分でも想定外の瞬間風速にびっくりして、私の中の緊急スイッチが入り、今度は一気に冷静な気持ちになりました。このときの感情の動き方は、改めて文章にすると面白すぎて自分で笑ってしまいます。




とまあ、こんな具合なのです。


さて、そういったわけで私は抽選に外れてしまったのですが、そのかわりに前方にいた精鋭部隊の人たちが1/3ほど当選し、私は観客の中で最前列に来ることができました。シロちゃんを、近くで見ることができる位置です。実ははじめからそこを狙って、3時間前からずっとじりじり進み続けていたのでした。

そして、シロちゃんの出番がやってきました。

透過ディスプレイは直前までばあちゃるを映していましたから、そのディスプレイがどのように映像を映し、どのように見えるかを私は知っているはずでした。
ところが、シロちゃんが出てきた途端。私は確かにそのディスプレイが、ただのガラス板から、バーチャル世界と現実世界の境界面になるところをこの目ではっきり目撃しました。

人間の視覚はただの投影ではなく、脳が事前知識によって補正を掛けた後のものであることはよく知られた事実ですが、シロちゃんが映るだけでここまで変わるとは私自身全く想像していませんでした。物理的にはただのディスプレイでも、そこには確かにバーチャル空間が広がっていて、そこにはシロちゃんという存在が明確に存在していたのです。少なくとも、私にはそうとしか見えませんでした。

シロちゃんのお悩み相談会(ではなく、シロちゃんを褒めて褒めて褒めまくる会でした)は、大盛況のうちに幕を閉じました。褒められて照れるシロちゃんも、謀反マンに思い切りパイーン砲をぶつけるシロちゃんも、スタッフとうまく連携が取れず何度もぱいーんする羽目になったシロちゃんも、すべてが面白くて楽しくて、もう私の感情の箍はすっかり失われてしまったようでした。
優先入場券の関係か、意外にもシロちゃんをよく知らない人が何人か当選していて、この人より私のほうが…という邪な感情が一瞬湧き上がりかけましたが、シロちゃんの笑顔を見ているとそんなちっぽけなことはもうどうでもよくなって、むしろシロちゃんをまだ良く知らない人がシロちゃんを好きになるきっかけになったなら良いことだなあ、と鷹揚な気持ちにさえなっておりました。

(このツイートは見えている文脈だけでなく、シロちゃんが「有機物とは結婚できないので死んでから出直してきてください」と発言していることも踏まえた、非常にハイ・コンテキストな内容です。)


そういうわけで、私はこの2日間、特に1日目の後半から2日目の後半まで、シロちゃんのおかげで非常に濃密な時間を過ごすことができました。
このとき私がどれだけ感動し、どれだけ気持ちが昂ぶったかは、その日のうちに書き上げたこの文章を読めば明らかかと思われます。

kriver-1.hatenablog.com

この貴重で素敵な体験は、私がこれまでどれだけ手に入れたくても手に入らなかった、存在すら知らなかった体験で、そしてシロちゃんがいたからこそできた体験です。
このことだけでも、私はシロちゃんにいくら感謝してもしきれません。

ところが驚くべきことに、こういったシロちゃんのおかげでできた感動的な体験は、他にもたくさんあるのです。この密度でそれらについて書くことはさすがにできませんが、軽く触れていきたいと思いますので、どうかもう少しだけお付き合いくだされば幸いです。

文化祭のこと

五月も半分が過ぎ、春の風に少しずつ汗ばむ熱気が交じるようになった頃のことです。

私は大学院生として大学に所属して研究をしているのですが、その大学には五月祭といういわゆる文化祭があって、大学内に少しずつ、焦りと高揚感の綯い交ぜになった空気が漂っておりました。
私は特に何かの企画を運営したりはしていなかったので、その文化祭のために何か特別準備をしていたというわけではありませんでしたが、それでも所属している研究室は例年展示を出していましたから、今年もその説明員として駆り出されるだろうとは思っておりました。

そんな中、シロちゃんは大きな節目を迎えていました。文化祭のちょうど3日前、2018年5月16日に、チャンネル登録者数46万人を達成したのです。

正直私は、文化祭などというものは全く以てどうでもよくて、シロちゃんの46万人達成を全力でお祝いしておりました。
とはいえ字義通りに現を抜かすわけにはいきませんから、表では文化祭の準備を手伝い、裏ではシロちゃんを祝って毎日ツイートをしておりました。


その週の金曜日、シロちゃんの生放送のタイトルは、「チャンネル登録者数46万人突破!(重大告知)」という直球勝負なタイトルでした。
私は毎週金曜日は研究室でこっそりシロちゃんの生放送を観ているのですが、さすがにこの日ばかりは翌日から文化祭ですから、研究室で一人全く別のものを観て別のことを考えているのもどうかと思い、早々に辞して自宅で生放送を視聴しておりました。

その中であった「重大告知」というのが、なんと告知の告知で、「明日重大告知をします」という内容の告知だったので、おそらく私を含め画面の前のシロ組さんは全員ズッコケていたことでしょう。というのも、この生放送の重大告知自体、その一週間前に「告知をする予定でしたが来週告知になりました!」というものだったのです。つまりその一週間前の内容は告知の告知の告知だったということで、なんだか面白くて、こういう落語探せばありそうだなあなどと思ったものでした。


さて、翌朝になって文化祭当日、私は一日中埋まったシフトを熟しつつ、合間を縫ってシロちゃんのツイッターを見ておりました。すると12時を少し過ぎた頃、シロちゃんからその「重大告知」がありました。
その内容に、思わず私はその場で笑ってしまいました。内容は、「マツコ・デラックスさんと地上波で共演!」というものだったのですが、その放送時間がその日の夜だったのです。

私は自宅にテレビを観る環境がないので、これまでのシロちゃんのテレビ放送も観られずにおりました。しかしながら、今回は46万人突破直後ということもあって、私も浮かれていたのでしょう、なんとかしてテレビを観られないかといろいろ考えました。(テレビを買うという決断は、学生の身には少々重いのです。部屋面積的に。)
そして、はたと気づいたのです。研究室にテレビがあるということに。
そういったわけで、私は文化祭という一大イベントを前座のように扱って、その日研究室に残ることを決意しました。いえ、もちろん文化祭自体も十分に楽しく刺激的で、いろいろな経験をしたのですが、それはここで話す内容ではありませんからばっさり割愛してしまいましょう。

そして時は過ぎ、シロちゃんの出演したという番組が始まりました。事前に聞いていたとおりシロちゃんはずっと出ているわけではなく、100人出てくるという触れ込みのうちの1人なのでした。シロちゃんとは無関係に番組自体が面白くて、久々に観たテレビという媒体の強みと、ツイッターで多くのシロ組さんと実況しながら観るという体験の良さを感じて、楽しく視聴しておりました。
シロちゃんは、99番目の出演者でした。出番はまあ、一瞬と言って差し支えない長さでしたが、他の人に比べると長めに扱われているように感じて私は幸せでした。テレビで観るシロちゃんは、いつものシロちゃんとは少し雰囲気が違っていて(もちろん私個人の感想です)ちょっとよそ行きという感じがして、それもまた良いなあという気分で視聴いたしました。

さて、これだけですとただ私がラボで徹夜でオタクをしただけという話になってしまいますので、続きを話すことと致しましょう。
私は研究室から徒歩で帰れる位置におりますので、満足といった気持ちで荷物をまとめて外に出ました。時刻は深夜の2時でございます。いわゆる草木も眠る丑三つ刻ということですから、当然辺りには誰もいませんでした。
ところが、私はあまり文化祭にコミットしてこなかったのでわからなかったのですが、外にはたくさんのテントが折り畳まれた状態で眠っていて、しかもどのテントもまだ看板が付いたままなのです。
それもそのはず、文化祭は翌日も続きますから、どのテントも翌日また稼働するつもりで、一時的に折り畳まれているのです。
そのことに気づいた私は、辺りに漂うかすかな甘い匂いにも気づきました。文化祭中は様々な匂いが入り混じって、甘いんだか香ばしいんだかよくわからない独特の匂いが漂っていましたが、深夜2時にもなって夜の空気と混ざってくると、その匂いがだんだん薄れてきて、逆にはっきりと質感を持って鼻に飛び込んでくるようになったのでした。

そのときの気持ちを、なんと表現すればいいか、浅学な私にはわかりません。ただ、薄暗い街灯の下で静かに眠るテントの群と、その中に漂うかすかなチュロスの香り、牛串の匂い、そういったものの中を歩いているときの私は、確かに心が動いていたのです。

私の人生が輝いているとしたら、そのうちの何パーセントか、あるいは何割かは、シロちゃんのおかげだと私は思っています。そういう意味で、私はシロちゃんのことが好きだし、シロちゃんのことを好きであるということに、とても満足しています。

モノづくりのこと

いやいや、まだあるのかよ、と思われてしまったら申し訳ありません。どうかもう少しだけ、私の蛇足にお付き合いください。

前述の通り、私は大学院でコンピュータサイエンスの研究をしております。
コンピュータサイエンスという分野は比較的エンジニアリングの要素が強く、要するにプログラミングをすることが多いということなのですが、その関係でモノづくりが好きな人が周囲に多いように感じます。
周囲に多い、という書き方をしたのは、私自身モノづくりが滅茶苦茶に好きというわけではないからです。私も物を作って人に見せること自体は好きですが、周囲にいる「モノづくりが好き」というのはそんなチャチなレベルではなく、もうプログラミングのコードを書いている段階で楽しい、配線を考えているだけで楽しいということなのです。さすがに私はそこまでではないので、これまで自主的に物を作るという行為はあまりしてきませんでした。
(もちろんこれは大嘘で、ネットの海には私の作った黒歴史オブジェクトがいくつも流れているのですが、そういった物事にはここでは目を瞑ることと致しましょう。)

しかし、それはシロちゃんに会うまでのこと、過去のことです。今の私は、シロちゃんのために、あるいはシロ組さんのためにという限定付きで、モノづくりが大好きな人種になりました。
実際、文化祭の後にはシロちゃんのデスクトップマスコットを作りましたし、

kriver-1.hatenablog.com

そしてこれは本ブログ初公開なのですが、シロちゃんの声がいつでも聞けるWebアプリも作りました。


ロボタンは、電脳少女シロちゃんの声を検索して再生できるWebアプリケーションです。

sirobutton.herokuapp.com

(特に、「このアプリについて」という項目を読んでほしいです。)


これらを作るときの過程は別の記事に譲るとして、こういった生産的な活動を積極的にできるようになったのも、シロちゃんのおかげです。
毎日動画をあげて頑張っているシロちゃんを観ているうちに、自然と生まれてきた気持ちなのです。

末文

書き始めた段階で長くなるという予想は立っていましたが、まさかここまで長くなってしまうとは思いませんでした。
長文乱文、大変失礼いたしました。そして、ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。

シロちゃんの活動一周年、清楚の日ということで、このような駄文をつらつらと書いてしまいましたが、ご迷惑ではなかったでしょうか。
もし万が一、億が一にでも、シロちゃんがこの手紙を読んでくれて、その上で少しでも嬉しいと感じてもらえたら、私にとってこれ以上の有り難いことはありません。


末筆ながら、シロちゃん、電脳少女シロ様、貴女の今後ますますのご健勝とご多幸を、心より祈念しております。
シロちゃんが日々を楽しく、健康に暮らしてくれさえすれば、私たちシロ組は何も望みません。嘘です。いつも動画を投稿してくれて、ツイッターでいいねしてくれて、ありがとう。一つ一つがとても嬉しくて、宝物です。もっとそういうことをしてください。すごく喜びます。

健康に気をつけて、できればずっと、私たちのアイドルであり続けてください。ずっと応援しています。

それでは、また。


敬具

現実世界の一ファンより